あたし、猫かぶってます。
目をゴシゴシと擦ってみれば、目の前に立っているのは早瀬と奏多。どっちがあたしを撫でたのかは分からないけれどーーなぜか聞けなかった。
「結衣、戻ろう?」
珍しく優しく笑う早瀬に頷けば、奏多はあたしについている埃をパンパンと払ってくれた。なんていうか、無性に胸が痛くなった。
「結衣?」
そんなあたしに気付いたのか、奏多はあたしの顔を覗き込んで不思議そうな顔をしている。
奏多はなんで、あたしの心情にいちいち感づいてくれるのだろう。奏多が優しければ優しいほど、あたしは奏多に甘えてしまう。利用してしまうのに。
「…へへっ、」
なんとも言えない気持ちを笑って誤魔化してみれば、奏多も遠慮がちに笑い返してくれた。
早瀬と奏多と、それからあたし。
三人で並んで歩くのは、初めてじゃない。今初めて歩いたわけじゃないのに。奏多と早瀬と並んで歩く自分に、なんとも言えない気持ちになった。
誰かが決めてくれた答えに従えたら楽なのにーーやっぱりあたしは、伝えられないままなんだ。
「…結衣、帰り、話がある。」
歩きながら、早瀬はあたしにそう言った。
「…俺も結衣に話がある。」
奏多も続けてそう言った。
話の内容はもう分かっていた。2人の気持ちも理解していた。3人で並んで歩くのがきっとこれで最後なのだと、ーーすぐに理解できた。
「わかった。」
あたしは今日、大切な人を選んで、大切な人を傷付けるんだ。