あたし、猫かぶってます。
あたし、猫かぶってます。
ーーーガタッ
廊下を走って、何度も何度も訪れた屋上前の階段へ向かう。走って走って走って、そしてやっと、辿り着いた。
「…返事は今じゃなくていい、っつたんだけど。」
まるで全てを理解していたかのような口振りで、早瀬はあたしを見ながら笑う。さっきまで読んでいた漫画を閉じて。ゆっくりゆっくり、あたしに近付く。
「どうしても、今じゃなきゃダメなの。」
そう言えば、やれやれといった表情であたしを見る早瀬。
「結衣って本当に頑固だよな。」
「…知ってる。」
「鼻も目も真っ赤だし、なに、泣く準備でもしてたの?」
いつもはこんな風にからかったりしないくせに、今日に限ってなんでこんな風にあたしをからかうの。
まるで、伝えたいことを伝えさせてくれようとしない早瀬に、ギュッと胸が締め付けられた。
「早瀬、聞いて。」
「だから今じゃなくても、」
「今じゃなきゃーーダメなの。あたし、言うから。」
さっきは早瀬が告白してくれた。あたしの手をギュッとして、真剣な表情で告白してくれた。
次はあたしが、応える番だ。
「奏多と、別れた。」
あたしの気持ちを、言う番だ。