あたし、猫かぶってます。


 「ほら、行け。」


 「はや…っ、」


 「早瀬結衣。お前は俺のーーー最高の親友だろ?」

 トントンと背中を叩かれて、あたしは必死に頷く。親友なんて言葉じゃ表せないくらいに大切な早瀬の言葉。聞き逃さないように、大切に大切に心のポケットに収める。



 「さっきのは親友からの絶対命令な。今から言うのは、脅迫。ーー今すぐ奏多に気持ち伝えてこい。走れ。…じゃなきゃ、」

 話しながらも、ゴシゴシと荒い手付きであたしの瞼を擦り、涙を拭う早瀬。


 「じゃなきゃ、明日からガン無視すっぞ。」


 なんてイタズラする時みたいな意地悪な口調で笑う早瀬。どんな気持ちでこの言葉を伝えているのか分かるからこそーー



 「ありがとう!!!」


 あたしは行かなくちゃいけない。



 スタートは屋上前の階段、ゴールは秋村奏多。


 走りながら、早瀬が最初に耳元で行ってくれた絶対命令が何度も何度も頭の中でリピートされる。


 《し あ わ せ に な れ。》


 早瀬、ありがとう。





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 「やっと言ったか、ばか。」

 屋上前の階段。一人残された俺は、ポツリと呟く。


 「がんばれよ、結衣。」

 失恋したはずなのに、なんだか胸は軽くて。切ないのに嬉しくて。不思議で不思議で仕方なかった。



 読みかけだったアイスクリーム・ラブを手に取り、小さく呟く。


 「やっぱ篠原、振られたか。」


 『ユイ』に振られたあたりとか、俺と一緒じゃん。


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