あたし、猫かぶってます。


 「朔くんに伝えたんだね、」

 偉い偉いと言いながら、あたしを優しく撫でる奏多。この優しさに、何年間守られてきたんだろう。


 ああ、気付けばあたしにはいつも奏多が居た。


 幼稚園の時に、ブランコから落ちた時も。
 小学校の時に、遠足で迷子になった時も。
 中学校の時に、女の子に無視された時も。
 高校生になって、色んな人と出会ってからも。

 奏多はいつだって、笑っていた。なんてもっと早く奏多の気持ちに気付かなかったんだろう。


 「おめでとう、結衣。幸せになってね。」

 ーーー奏多はいつも、泣いていたのに。



 苦しくない訳がない、誰よりも優しい奏多が平気な訳がないじゃないか。顔で笑って心で泣くのがーー奏多じゃないか。


 「…幸せに、なるよ。」

 そう言えば、寂しくはにかむ奏多。そしてあたしは、話を続ける。




 「幸せになる前にーーー最後に言わせて。」


 傷付けて、ごめんね。
 迷惑かけて、ごめんね。 
 我慢ばっかりさせて、ごめんね。
 振り回して、ごめんね。
 独占欲強くて、ごめんね。

 でも、聞いて。最後に聞いて。








 「あたし、奏多が…っ、ーーー好き、です。」

 涙でグニャグニャ歪んだ視界。今日だけで一生分泣いたような気がする。よく分からない視界の中で、奏多の足音がゆっくり聞こえてーー



 「…ばか。」



 大好きな香りに、包まれた。


 
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