あたし、猫かぶってます。


 「結衣、」


 「ん?」


 「えーっと、あのさぁ。」

 気まずそうにあたしから目線を逸らして、何かを迷っているような奏多が、困ったような顔で喋り出す。


 「なに?」


 「目、閉じて…くれない?」

 あまりに真っ赤な顔でそんなことを言うものだから、何が言いたいのかすぐに分かってしまった。


 「…なんで?」

 分かっているけど、あえて知らないフリをしてそう聞いてみれば、困ったような顔であたしを見る奏多。


 「~~~~~っ、あれ、するから。」

 アレ、だなんて。奏多はピュア過ぎるよ、本当に。



 「アレって、なに?」

 ニヤニヤした口元をギュッと引き締めて、意地悪をするように言えば、奏多は「もう!」と怒って、あたしの後頭部に手を回してーーー



 ーーチュ、


 「だから、キス!!キスしたかったの!」

 真っ赤な顔でキレながらそう言った。


 本当の恋人同士での初めてのキスは、とってもとっても甘くて、ふわふわした気持ちになった。その時




 「ーーーうわ、お前ら、道路でなにやってんの。」

 頭上から、呆れたような声が、降ってきた。



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