あたし、猫かぶってます。
「って、いつまでくっついてんの。離れてっ。」
我に返る。早瀬は彼女が居て、あたしは好きな人が居る。それなのになんで早瀬に抱きしめられてるの、あたし。
「結衣が泣き止むまでは離す気ねぇから。」
自己中!本当に自己中!早瀬ってなんでこんな強引なんだろう。
「いや、早瀬。本当に離してーー、」
これ以上は、ヤバい。奏多んち、すぐそこだし。あたしんちも超近くだし。なんか、ヤバい気がする。誰かに見られたらーー
「なにしてんの。」
あたしの脳内、思考停止。冷めた声。喋ったのは早瀬じゃない。
「離せよ、嫌がってんじゃん。」
グイッと引き剥がされる。どうしよう、どうしよう、どうしよう。一番見られたくなかった相手に、見られた。
「奏、多…」
なんか、奏多機嫌悪いし。どうしよう、あたしの目からなんか液体出てるし。いじめられてると思ったんだ。
「や、奏多。早瀬は、あたしの目のゴミ取ってくれただけで、」
って、ベタ過ぎるよ!あたしのバカ!
「いいから、結衣は黙ってて、」
そう言ってあたしのベタな言い訳は、呆気無く跳ね退けられた。ヤバい、奏多怒ってる。