あたし、猫かぶってます。


 「奏多ぁ、腕痛い。」

 そう言うと、奏多はヤレヤレと言うような顔であたしを見て、それから笑顔で大量のプリントを軽々と持ち上げる。

 ほんとは、ちょっと重いだけで自分でも持てるし、腕が痛いわけでもない。


 でも、奏多にワガママ言わなきゃ、奏多はあたしに構ってくれないから。だから、こうやっていつも素直になれない。


 あたしがうまく甘えられたら、もっと自然にコミュニケーションを取れたら、きっと奏多ともっと近いのに、素直じゃないあたしは、お礼さえ言えない。

 ただ、真っ赤になった顔を隠すように俯きながら歩く。

 「結衣?どした?」

 俯くあたしを覗き込む、奏多。ああ、もう。なんでこんなにカッコいいんだろう。


 奏多はモテる。みんなに優しいから。そんな奏多を独占するあたしは、きっと嫌な奴なんだろうけど。

 奏多は、あたしのだもん。あげたくない。


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