あたし、猫かぶってます。


 とりあえず本屋でVORGを買って、奏多の家に行くことにした。奏多に会えば、また幸せな気持ちになれるはず。全部忘れられるはず。


 ーー気付いたら、あたしは駆けだしていて。


 どうしようもなく不安で、なんか弱気な自分が嫌で。あの頃と何も変わっていないような気がして、怖かった。



 ーーピンポーン

 秋村家のチャイムを鳴らす。勝手に入るときもあるけど、何となく今日は鳴らしてみた。


 奏多に会ったら、笑顔で何もなかったかのように笑おう。そして奏多の笑顔を見て癒されよう。

 そう考えながら待っていると、勢いよくかいたを降りる音が聞こえて、


 ーーーガチャッ、   ギュッ


 ドアが開くのと同時に抱きしめられた。


 「え、奏ーー」


 「麻紘から、電話来た。」

 そう言って、さらに強くあたしを抱き締める。


 「また、遅かった。守れなかった。ーーごめん。」

 そう話す奏多の声は震えていて、引っ込んでいた涙がまた溢れそうになる。堪えるけど。


 「VORG買ってきたんだ、奏多の好きな涼ちゃんたくさんうつってるし、一緒に見よう?」

 笑顔で、そう言う。奏多、そんな苦しそうな顔しないでよ。奏多は悪くないのに。



 「ーーー無理して笑うな、ばぁか。」

 ギュッと、抱き締める力が強くなり、奏多との距離も近くなる。


 あったかい。ドキドキする。涙出る。

 ああ、あたし、泣きたいくらいに奏多が大好きなんだなあ、なんて改めて思った。


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