あたし、猫かぶってます。
しばらくして、早瀬に解放されたあたしは教室へ戻る。まあ、誰も居ないだろうけど。
ーーーガラッ
教室の扉を開けると、あたしを見て微笑む女の子が1人。
「知奈ちゃん…?」
「結衣のこと、待っていたんだ。」
やんわり笑う知奈ちゃん。もう帰ったのかと思っていたから、純粋に嬉しかった。
「結衣に、言わなきゃいけないことがあるの。」
表情を変えないまま、そう言う知奈ちゃん。なんとなく、早瀬のことを言うような気がした。
もしかして、キスされたところ、見られた?
頭によぎる、中学時代。知奈ちゃんはそんな子じゃないのに、過去の出来事があたしを縛る。
焦るあたしをよそに、口を開く知奈ちゃん。
「朔くんのこと、もう好きじゃないんだよね!」
わざとらしく明るく笑う知奈ちゃん。絶対、嘘。
「知奈ちゃん、嘘下手だよ…」
あたしが、知奈ちゃんに嘘つかせているんだよね。ごめん。
「嘘じゃないよ!朔くんはいい男友達って言うかーーー」
「知奈ちゃん!!!」
あたしにこんなこと言う資格無いのは分かってる。もう、十分把握してるけど、
「欲しいものは、相手と戦ってでも、手に入れなきゃダメだよ!?」
あたしに譲るために、諦めるなら。知奈ちゃん、間違ってるよ。
「うん。でもね、」
知奈ちゃんは、びっくりした顔をして、再び微笑む。
「朔くんより好きな人、出来たんだ。」
「え?」
嘘ついてるようには見えない、幸せな表情の知奈ちゃん。
「麻紘?」
「田崎くんは、友達だよ。ーーヒントは、あたしの一番近くに居てくれるひと。」
仲良くなっても未だに田崎くん呼びじゃん。…どんまい、麻紘。でも、麻紘じゃないならーー
「じゃあ、だれ?」
「鈍感な結衣には、教えない。」
「えー!」
教えてくれようとしない知奈ちゃん。いやいや、超気になるし。
「ほら、帰ろ?」
笑顔であたしを見る知奈ちゃん。ーーあたしの一番は、知奈ちゃんなんだけどね。
(あたしも結衣が一番大切に決まってるじゃん。)
あたしが知奈ちゃんの一番好きな人を知るのは、それからずっとずっと先のことだった。