ここに在らず。
「お隣空いてますかー?」
なんて言葉と共に、私の返事も待たずに席に着いたその人は一冊の本を手に持っていた。今日も読書をする気があるらしい。
私はその本にそっと目をやって、一体どんな本に興味があるんだろうかと調査してみる事にした。…が。
「え、英語…?」
…そう。内容も何も分かったものでは無かった。何故ならそれは全文英語で書かれた小さな文庫本である。
「そ、英文学。つっても王道のだけど」
隣からその人の声が聞こえてきた。そして私はその時、またもや心の声が言葉になってしまっていて、その呟きにその人が答えてくれたものだと気がついた。