ここに在らず。
どうやらナツキさんは、私がどこか別な所に連れて行かれるのかもと疑っていると感じたらしい。実際私はそんな事を思った訳では無かったのだけれど…もう否定するのも面倒臭くなったので、黙ったままナツキさんの後に着いて行く事にした。
…ただ私は、自分の意思で飛び出して来たそこにまた連れ戻される自分が情けないなと、だったら自分でそこへ戻ろうと、そう思っただけだった。
そしてそのまま約束通りに連れられたのは、授業真っ只中の時間帯である私の通う学校。「教室まで着いて行こうか?」なんて嘘みたいな事を言うナツキさんを丁重に断って、私は一人、本来居るはずであったそこへと向かう。
教室の前で、一度深呼吸をした。いつもこの中に居るはずなのに、そこに入る事にとても躊躇した。なんて空気なのだろうと思った。シンと静まり返った中に、教師の声とチョークで黒板に書く音だけが響く。そこに扉を開けて新たな音を作り出す勇気が無い。…でも、
ーー行くしかない。
私は、意を決して教室の後ろの扉を開いた。