ここに在らず。
声にしてみる。そう。怖い事が待っているけれど、やっぱり迎えが来たという事は、今起きている事が現実だという証明にもなると思った。そう思えば少しは気持ちが軽くなる。
「あぁ。現実だ」
そう答える彼もまた現実。本物の、この世に存在する人間。
「良かった」と、私は胸を撫で下ろす。それだけでまた耐えられると思った。
「あの…最後に、お名前を教えて頂けないでしょうか?」
私が不躾にも尋ねてみると、彼は一瞬キョトンとしたが、嫌な顔一つせず答えてくれた。
「トウマだ」
「…トウマさん…」
そして私は心の中で何度も繰り返し名前を呟いてみる。トウマさん。今日私が出会ったこの人はトウマさんという方…。
その時、胸にポッと明かりが灯った。それはまるで先程ここまで私を導いた、遠くから見えた外灯の光のようだった。
きっと大丈夫。暗闇の中でもこの光があれば大丈夫。