ここに在らず。


「彼は、君を心配していた。朝と君が帰って来てすぐ、それと寝る前などに本邸の鍵のチェックが入るとかで、だから問題の無い時に、君がいつか気づいて出られる日が来るようにと開けてくれていたそうだ。そしてある日…そう、二回目に君と会ったあの日、君がその扉から外へと出る時が来た」


トウマさんの言葉に、私はあの日を思い浮かべる。あの日、私はトウマさんに会いたくて会いたくて、夢でもいいからもう一度と願って眠りについたはずだった。それなのに気がつくと私は、あの公園に着いていたのだ。


あの時、鍵は閉まっていなかったのだと、それを今理解した。あの人が開けてくれていたなんて…知りもしなかった。というか、考えもしなかった。でもそれが現実。私の事を思って開けてくれていた…そんな現実が私にもあったことが、嬉しいと素直に思う。

…でも、鍵が開いていたとしても、まだ謎は残ったままである。

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