ここに在らず。


私が見つめる先、トウマさんは口を開く。

その時私の涙は止まったと、そう思う。驚いて流れ方を忘れたように、止まったと思う。


「今度こそ君を救ってみせる。だからもう一度、俺を信じてもらえないか?」


そう尋ねるトウマさんの言葉に、私は頷く事しか出来なかった。


私の心の中から溢れ出る感情。その名前を私は知らない。…でも、私には分かった。目の前の世界が、変わる。今まで見てきた世界がガラリと変わる。私が居たのはそこでは無かった。そこはそんな所では無かった。

あぁここは、現実だ。ここがきっと、私の新しい世界なんだと、抱き寄せられて感じる温もりの中、やっと思えたように思った。


< 298 / 576 >

この作品をシェア

pagetop