ここに在らず。


ぞわっと、身体中の毛が逆立つような悪寒がした。もしかしてと、私は心の中に生まれた底の無い落とし穴を覗き込む。


もしかして…あれは夢?

…それとも、これもまだ夢?


身体が、硬直する。それなのに心臓だけはバクバクと、やけに大きく動き始める。

確認すればいい、ただそれだけの事。ここに私は居る、ここはトウマさんの家。それは現実。だから、これは現実。


大丈夫、大丈夫。そう私は自分に言い聞かせるのだけれど、上半身を起こした所でピシリと硬くなった身体はなかなか動き出そうとしない。そして頭には自分の大きな心音だけが不自然に響いてきて、そのリズムが私を誘う。あの真っ暗な、落とし穴の中へと。


なんで?どうしよう、どうしてなの?

< 300 / 576 >

この作品をシェア

pagetop