ここに在らず。


…私は、答えられなかった。戻りたくないと、何故か口が動かなくて…私は、そんな自分にもすごく戸惑った。


トウマさんの事だ。そんな私の様子は伝わっているのだろう。いつものように優しげに微笑んだトウマさんは「…サエ」と私の名前を呼ぶ。


「これからの事。また学校へ通い始めるとして、君は何処から通いたい?家に戻っても良いと思う。寂しく感じても可笑しく無い、それまで育って来た家族の居る場所だから。それに藤堂さんは見捨てた訳じゃ無い。君の未来も考えてあるからこそ、どうするかを気にしてるんだろうから」


「まぁ、どんな未来を考えてるかなんて、そんな事まではわからないけど」なんて、トウマさんは少し困ったような表情で続ける。


「もちろん、うちにこのまま居てくれても良い。そしたら荷物もあの部屋に運べば良いし、必要なものは揃えるし、そこら辺は別に心配しなくても良い。だから後は、君がどうするかだ」

「……」


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