ここに在らず。


あの頃の私はずっと、トウマさんとの事を夢だとしていた。だから彼に私の夢の中の人物、つまり私が作り上げた偽物の彼だという認識を持った上で接していた訳だから、現実の一人の人間として理解した今、あの頃の思い出すら全て書き換えられていく事になる。

あの時、あの場所でトウマさんと会話した事。たわいもない物ばかりだったそれら。それは私が私の欲求を満たすために作ったものでは無く、私と彼という二人の人間の間で生まれた物だった。それは二つの意思によって生み出された、特別な時間と出来事。

私はそれがずっと大切だった。夢だろうが現実だろうがそれだけは変わらなかった。そしてそんな私が大切にしていた宝物が今、私の中でだけで無く、トウマさんの中でもずっと保管されていたという事に気づいてしまった。トウマさんはそんな些細な事までも覚えていてくれて、しかもそれを今、これからの未来へと繋げてくれたのだ。私との、これからの未来に。私とトウマさんが一緒に迎えるという、素敵な未来に。

< 326 / 576 >

この作品をシェア

pagetop