ここに在らず。

「甘える事は許されないのだと、それは本邸の人達が作ったルールの上に私が作ったルールだったのかもしれません。それを甘えだと思う事で、いけない事だと思う事で諦めをつけてきました。だからそれはどんどん広くなっていって…だから私は、甘えるという事自体に良いイメージは抱きません。トウマさんのためだと言われれば、だったらやってみようと思えても、そこにはやっぱり戸惑う私が居る事も事実です。でも…」

「……」

「私の知っている…いや、感じているそれらは、甘えではないんですね」

「……」


そしてナツキさんが、私に教えてくれた事。


「甘えと感じる自分を許して、受け入れる。これが私の甘え…私が、甘えるという事」


「それは悪い事では、無い」そうポツリと呟く私に、「…そういうこと」と、ナツキさんが返事をしてくれた。私の視線の先に居る彼。彼の表情はとても優しい…そして何処か安堵したようにも見える。それはなんだかトウマさんのする表情に似ているように思えた。