ここに在らず。


手早く身支度を終えた私は学校へと向かう。私の部屋がある離れからは本邸の様子は窺えないけれど、昔はとても羨ましかった本邸。どうしても入りたかった本邸。でも今となればもうどうでも良かった。


どうせ私は、本邸に住む人間とは別の人間だ。


叔父、叔母、祖母、父、弟、そして母ーー。何の仕事をしてどれだけ偉い人達なのか分からないけれど、やたら大きな家に敷地。その中で働く使用人の方々。全てがあの人達には必要なものであの人達の為のものらしい。

その敷地内に入れてもらえているだけ私は有難く思わなければならないと何度も教えられてきた。それも仕方が無いとは思う、だって私は他人だ。違う血が流れている他人だ。

始めの頃は母も同じだった。私は母のお腹に居た違う父親を持つ子供。でも、それでも父…というか、本邸の長男である父は母を溺愛していて、周囲の反対を押し切り無理矢理結婚をした。すると生まれるお腹の子供の問題。

あの人達はここらでは有名な資産家である。子供を中絶させるべきか話し合ったらしいけれど、もう随分と大騒ぎしていたせいで世間には母に子供が居る事もすっかり広まっていて、中絶なんかしたらそれこそ世間からどう思われるのか分かったものではないと、結局世間体を優先して出産に踏み切ったらしい。

そして、最終的に生まれた私は離れに閉じ込められ、なるべく自分達からも世間からも離して生活させることに決められた。

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