ここに在らず。
大きく頭を下げた。髪の毛が横からパサリとおりてきて、カーテンのように私の顔を取り囲む。…だから、私にはナツキさんの表情が、気配が、分からない。
「……あんたは、俺を信用してるか?」
だから、どういう意味で彼がそんな事を聞いて来るのかが分からない。
「してないだろ。というか、あんたは何も信じてない。俺の事もトウマさんの事もあんたの事も。だからあんたは誰から話をされた所で、誰がどうあんたの事を想った所で、あんたがそれを理解して信じてみようとした所で、結局そういう結論にしか辿り着かない」
…でもそれは、その話はだんだんと私の知っているものへと近づいていく。
「仕方ないよな?自分にはそんな価値が無いんだから。そんな自分はどれだけ良くして貰っても、その人を裏切る事しか出来ないもんな?そんな自分を信じて貰えるだなんて思えないもんな?いっそのこともう自分は違うと思った方が気が楽だもんな?そんな訳が無いって諦めた方が傷つかないもんな?そうやってあんたはずっと、自分を守ってきたんだろ?だからあんたは俺の話を理解しても受け止められない。受け止めようとしても、それを否定する意思に負けてしまう。自分のものとは違う意思がーー過剰な防衛本能が、それを許さない」