ここに在らず。
「でも、だからかあの人は、相手にも意見を主張させる。自分の思いを発する事、それがきっとあの人にとって大事な事なんだと思う。…といっても、結局トウマさんの意見を変える事は出来ないんだから何の意味も無いんだけどな?」
そう言ってナツキさんは「ほんと我が儘だよな」と笑った。トウマさんは我が儘だと、私の知らないトウマさんの事を笑って語るのだ。
そんな彼を見て私は苦いような複雑な想いを抱くのだけれど…
「でも、あんたには違ったんだ。あんたにはあんたの意見を尊重していた。何故か分かるか?」
突如問われたその言葉に、私は自分のその想いと向き合う時間も無かった。
向き合って考えて…きっと不安になって暗い気持ちになってしまうであろう間も与えずに、ナツキさんは私に問いかけた。それはきっとあえての物だっただろうと思う。
「それであんたが離れていくのが怖かったんだ。自分の意見を聞いたあんたが離れてしまって居なくなるのが怖かった。まぁ、あんたが自分の意見を大切にしないタイプだったから自然とそうなったって事もあるだろうけど…トウマさんはそうやってあんたを大切にしてたんだよ、ずっと」