ここに在らず。


「行こう」


トウマさんは全てを出し尽くして朦朧とする私の手を引いた。その手に連れられて私はどこにいくのだろう?なんて思いながらも歩き出す。


手を引かれながら、私は彼の後姿をぼんやりと眺めていた。

黒いスウェット生地のパーカーとジーンズ。そして飾り気のない靴。

全てが普通だったけれど、全てが特別だった。不思議だった。彼は、トウマさんは、何か独特な雰囲気を持っている。

暗さの中に溶け込むのに、それでも放つのは妙な存在感。馴染むのに地味ではないまるで闇を纏っているかのようなそれは、きっとそこに溶け込むためのものなんだと思った。

闇に溶け込む彼。何故溶け込む必要があるのだろう。そんな彼の背中がだんだん、だんだん暗くなる。それはだんだん紛れ込むように闇の中に…


「!」

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