ここに在らず。
「なぁ、あの後どうだった?」
次にナツキさんと会った時の、彼の第一声はそれだった。
あの日の後、お仕事がお休みだったため家には来なかったナツキさん。…置き去りにしたクセに、どうやら一応私の事を気にかけてはくれていたらしく、私はその問いに自分で導き出した結果を思い浮かべた。
今まで、私は答えをナツキさんに教えて貰ってきた。
私が尋ねるその度にナツキさんは真剣に向き合ってくれて、私のために叱ってくれる事もあった。それが嬉しかったし、だからナツキさんを慕っていった。ナツキさんが傍にいてくれなかったら、今頃の私はきっとこんな私にはなれていないだろう。
ナツキさんの言っている事に間違いは一つも無い。教えてくれたそれらは全て私のためで、私が私個人として成長し、一人の人間として成り立てるようにするためのものだった。それは今もしっかりと理解していて、納得している。そんな私になる必要性は十分にある。でも……それでも今は、今の私にとってのそれは、間違った方向性なのだ。
ーーあの後どうだった?
「…何とか上手く、収まりましたよ」
私はいつも通りの笑顔で答える。それが一人の時間に出した私の答えだった。