ここに在らず。


並んで二人でゴクリと一杯。はぁー…平和だ…なんて、頭の中と心の中が落ち着いたその時だった。

私の中にジワリと、黒く滲み出すものを感じた。


ーートウマさんは、今頃何をしているだろう…


ケーキを作っている時には、集中していてすっかりと忘れられていたいつものそれ。


ーー今日帰ってきたトウマさんはまだ、私の事を見てくれているのだろうか…


それはどんどんと染み渡り、私の中でまるで大きな黒い池となる。

私はいつも、上からそこを覗き込む。でもそこからでは底は見えない。その先がどこまで続くのか、どれだけの深さがあるのか、さっぱり分からないそれに私は不安を煽られる。そして見えるのは、真っ暗な水面に映る真っ黒な私。それはまるでーー昔の私。


ーー嫌いだ。

こんな私嫌いだ。

でも…


今の私も、嫌いだ。



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