ここに在らず。


頭の中で、彼の声そのもので再生されるそれ。


『君は、俺の求めていた色を見せてくれた。君はいつも俺の理想を現実にしてくれた』


その時の私は、何も理解出来なかった。そしてぼんやりと感じた自分の想いとは違ったそれに、私は私の想いを優先させて、結論まで辿り着いた。


“トウマさんに私は求められていた。でも、今の私をトウマさんは求めていない”


出した結論、それは正しいと思う。だからトウマさんは初めて会ったその日から、私の事を気にかけてくれたのだと思う。その頃の私が彼の答えを持っていて、だから形にするための力になれたのだと思う。でも…私は大事な所に目を向けようとしていなかった。


ーートウマさんが求めていたもの、それは一体何なのか。

ーーそもそもそれは昔の私自身なのか、それとも昔の私が持っていたものなのか。


トウマさんは、“いつも現実にしてくれた”と私に言った。“いつも”ということは、一瞬のその時限りでは無いということ。ある程度の期間継続して私は力になれていたということ。

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