ここに在らず。


母は今もそこで幸せに暮らしている。私の存在なんてすっかり忘れて。

結局いらないのは私だけ。母と私は何の関係もなく、母はもう違う人間。でも最初から私は離れに一人だったし、それで生活が変わった訳でもない。ただそれだけ。たったそれだけなのに…それは、私の心の中で深く深く根付いていった。


そして、そんなある日の事。


本邸の人達の息のかかった私立の高校へ通い始めた私。同じく母の息子も中学校へ通い始めた頃で、彼は生意気盛りだったのだろうと思う。小さな頃から居るのは分かっているのに関わる事を禁じられてた私に興味を持っていたのだと思う。そして物事が理解出来る様になって私がどういう立場の人間なのか分かったのだと思う。


「なぁお前、母親に会いたくねぇ?」


離れにこっそりやってきた彼のその言葉に、ついて行ったのが間違いだった。随分と顔を見てない母に会いたいと思ったのが間違いだった。

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