The shop of the witch.
**



 ――――その世界は薄暗かった。
目に入る周りの景色は何となくぼやけている。
いや、自分に見えていないだけなのか。
彼女ははっきりしない意識のままゆっくり周りを見渡した。

(…あれ?ここって…)

 ちゃんと分かるわけではないが、今自分が立っている場所に見覚えがある。
実際ここがどこかなんて確信めいたものは何一つないけれど、『何となく』覚えがあった。
 一歩、前に進む。
ザリ、と嫌な感触が足の裏に走った。俯いて見てみれば靴を履いていない。───裸足だった。
 明かりは一つもない。道の両端にいくつか街頭はあるのに、どれにも明かりは灯っていなかった。
 一歩、また一歩、足が前に進んでいく。自分の意思とは関係なく勝手に足が動く


(どこに向ってるの?)

動いているのは紛れもなく自分の身体なのに、どこへ向っているのかは分からなかった。

(おいで、って言われてるみたい)

自分の意思ではないから尚更そう思えた。
 そうしてどれくらい歩いたか分からない。それでも足は止まることなく歩き続けた。
不思議と『怖い』という気持ちはなかった。だけど変わりに『いつまで歩けばいいのだろう』という疑問が頭を占める。

(…あ)

 考えごとをしていた目の前を何かが横切った。
錯覚と思いきやどうやら違うらしい。目で追いえば確かに存在していのだから。
 ほんの僅かな距離。白く大きな発光体がぽかりと浮かんでいる。
 恐る恐る近付いてもそれは逃げることなく、まるで待っていたかのようにそこに浮かんでいる。

(なんだろう、何か見える)

その明かりの中に何かがある。彼女は目を凝らし今一度それを見た。

(家…?)

 家。一軒家。古びた洋館がそこにあった。
 発光体に触ろうと指先でつついた次の瞬間、発光体が周り一体に光をもたらし、気がつくと洋館が目の前に。一瞬にして何が起きたのか理解できなかった。
それに触った途端に光に呑まれたのだ。

(今の何だったのかな。…あっ)

 混乱の間もなく目の前に現れた白塗りの壁。その壁に長く長く巻きついている弦の蕾に心を奪われた。
 見とれていると突然、薄い紫色をしたアサガオが弦を登るように上に向かい咲き始める。
< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop