The shop of the witch.
見ているだけで落ち着く。心から癒される。
今までにこんな『綺麗だ』と思うものを見たことがなかった。目を奪われることがなかった。

(キレイだなぁ)

 そうして見ていると途端に咲いていた花が閉じ始めた。
 魅入っていた彼女はそこでハッと我に返りまた周りを見渡しては誰かがいないか確認した。
 やはり誰もいない。

(随分と静かな世界)

 人の気配おろか、風の音も聞こえてこないのだ。少しだけ寂しさが心に生まれる。
 いつまでもここにばかり立っていられないと洋館の周りをウロウロ。
すると、小窓を見つけた。いけないと思いつつ、彼女は恐る恐る中を覗いてみる。
…けれど人は見当たらなかった。ただ明かりはついていた。
オレンジ色の、優しくて暖かい明かり。
 部屋の中央に四つの青いソファ。硝子製らしきテーブルを四方から囲んでいた。
テーブルの上には、湯気を立たせたティカップとケーキが乗っている。

(入ってみよう)

 突然湧いた好奇心を抑える方法は知らず入口を探すためまた歩き出した。

(あった)

 ぐるり、半歩進んでようやく見つけたドア。上にはベルがついている。クリスマスの時に飾られるような金色のベルだ。
 ドアノブに触れ、握り、そっと回す。
ゆっくり引いて開けると、ベルが揺れてカランカランと大きく音を立てた。やけにしつこく耳に纏わりつく。

(何これ、うるさい)

キンキンと鳴り響くそれは頭の中で木霊する。耳の奥と目の奥がそれに反応してかずきずきと痛み始めた。

「こんな時間にだぁれ?」

 一歩踏み込んで彼女は勢いよく顔を上げた。音に気をとられ人の気配にまったく気付かず、声がしたことに驚いたのだ。

「あら、こんばんはお嬢さん」

 その声の主は女だった。
長く艶々しい黒髪を後ろで結い、黒のロングドレスの上に赤のカーディガンを羽織り、赤のハイヒールを履いたすらりとした長身の女。

(あそこにもドアが…)
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