The shop of the witch.
見るとその人の後ろにドアがあった。自分が入ってきたドアと向かい合っている。
女は恐らくそこから現れた。
どこから現れたのかという疑問はすぐに消え、戸惑いがちに視線を女に戻す。
すると薄青色の瞳が彼女をじっと見つめていた。
『あ…あの…』
「死…んではいないわね」
『え?』
「お嬢さん、どこから来たの?」
『どこから来た?』、そう聞かれてもよく覚えていないし、それを伝えようとしても上手く言葉が出てこない。
『これは、夢?』、やっとのことで出てきた言葉は質問に反していたのに、『そうね』、と女は何か悟ったような顔をしてすぐに微笑んだ。
「─────っ!」
ぐわん、と突然視界が一回転した。
何だと自分でも驚いた瞬時に、さっきのベルの音がまた一段と大きくなって先程よりも深い所でガランと響き渡る。
その一瞬の痛みのダメージは相当なもので、耐えられなくなった彼女は両方の耳を手で塞いでついにはその場にしゃがみこんだ。何なのかよく分からない。それでも痛くてたまらなかった。
「あらら」
それを見ていた女は手に持っていた二冊の本をソファへと放り投げては彼女に近付いた。
同じ体制になって後ろから彼女の両肩にそっと触れると、大丈夫だから、と呟く。
「あなたには人一倍強い、想い、願いがありそうね。けれど今日はもう自分の体に戻った方がいいわ。
今度は本体でここに来なさい。その時に話を聞きましょう」
女の声はとても穏やかで、それでいて凛としていて、あれほどまで激しかった痛みが嘘みたいに少しずつ和らいでいった。
彼女は女の顔をゆっくり見上げた。
女は、痛さのあまりに涙ぐんでいる彼女の両目にそっと手を添えて
「さ、目を瞑って。眠るように、ゆっくりと身体の力を抜いて、そう」
まるで催眠術でもかけるかのように優しく彼女に語りかけた。
言われたとおりに目を瞑り、身体から次第に力が抜け始め意識が遠のき始める。
「おやすみなさい」
女がそう呟くと彼女の身体は小さな小さな光となった。女の腕もとから離れ、ふわふわと浮いて上って行く。
天井にさしかかると、その光はそのまま突き抜けていった。
「気をつけてお帰りなさい」