スイート・リトル・ラバーズ
 それでも良いことだけは続かなかった。

 高校3年生の時に人生が暗転した。

 ある時学校から帰って来て、自分の机にカバンを置いてみると、普段は母親が寝起きしている部屋から誰かが起きる音がして、足音がそのままキッチンの方へと向かった。

 この時間帯は母親は仕事に出かけているはずだったから、おかしいなと思っていると、しばらくしてから、私の部屋のドアがいきなり開き、私の知らない男が姿を現した。

「誰、ですか?」

 そう言っても、相手はそれに答えずに、私の所へと歩いて来るだけだった。

 普段はここで、またいつもの母親の愛人か、とそう思うのだけれど、この時は違った。

 相手の顔を見た瞬間、ものすごくイヤな予感がして、私はここにいてはいけないと直感で思った。

 すぐに自分の部屋から逃げ出そうとするのだけれど、そこから出る直前に相手の男に腕をガッと掴まれた。

「ちょっ、離してっ」

 私がそう言っても、相手はその荒々しい行為をやめず、私のブラウスを掴んだかと思うと、それを思い切り引き裂いた。

 この瞬間、私は何をされるのかを悟った。

 だから全力で抵抗して相手の男を突き放し、外へと靴下のまま飛び出すのだけれど、急ぎすぎたあまり出る直前に鼻をドアに思い切りぶつけて、今度はそこから鼻血を出した。

 外はもう暗かった。

 11月で空気も冷たかった。

 そんな中私は鼻血をダラダラ流しながら、いつもの公園へと逃げ込んだ。

 そして、そこに着いた瞬間ブワッと涙を流した。

 怖かったというのもあったし、安心したというのもあった。

 顔の痛みも、今夜ここで過ごすのかという心細さも、寒さへの不安も私に涙を流させた。

 シンに助けを頼もうかと思ったけれど、ケータイを持っていなかったし、ここからシンの家まではかなりの距離があり、靴がないまま歩いて行くのはほとんど不可能だった。

 だから夜が明けるまで、私は滑り台の陰に隠れて泣いて過ごした。

 もちろんしばらくは鼻血も止まらなかった。
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