*ふわり、はつこい*
どうしよう。

場所が分からずお手洗い付近をウロウロしていると誰かにぶつかってしまった。


「あ、すみません」


私は咄嗟に謝った。


「おぉ。あ、大丈夫?」


あれ。この声、聞き慣れたような。

そう思い顔を上げると、そこには陸上部の3年の先輩が立っていた。

あぁ、先輩か。名前なんだっけ。覚えてないや。


「はは。道に迷ってたの?」


先輩は少し笑いながらそう言った。

するとなぜか胸が急に騒がしくなった。


「え、あ。はい。テントの場所が分からなくて」


なにこれ。静まれ。静かにしろ。私の心臓。


「そっか。じゃあ俺についておいで」


先輩は優しく言いながら私に背を向けた。

その間にも私の心臓は煩いまま。

なんなんだろう。これ。変な感じ。でも先輩がいてくれてよかった。
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