甘ったるい嘘吐き
漱石の、言葉を借りて
それは、本当に唐突なことで。
「先輩、月が綺麗ですね」
となりを歩く後輩が、無表情で放ったその言葉に。
あたしはまず自分の頭上に広がる紺色の空を見上げ、ぐるりとその闇に視線を巡らせてから。
再びとなりの人物へと顔を向け、首をかしげた。
「嘘つきだ真鍋、月なんてどこにも見えないじゃんー。それとも真鍋には見えてんの? どんだけ目悪いの? そのメガネ度合ってないんじゃない?」
「………」
今日は朝からずっと曇っていたから、月なんて見えるはずないのに。
いきなりコイツは何を言っているんだと、思わずくちびるをとがらせた。
するとそんなあたしの発言を聞いて、真鍋はふーっと、真っ白な深いため息をひとつ。
「……志乃先輩って。本当に、残念な人ですね」
「なっ?!」
メガネ越しの、心底憐れんでいるようなその視線に見下ろされ、反射的に抗議の声をあげる。
あたしはまたくちびるをとがらせて、それからさらに深く、マフラーに顔をうずめた。
「先輩、月が綺麗ですね」
となりを歩く後輩が、無表情で放ったその言葉に。
あたしはまず自分の頭上に広がる紺色の空を見上げ、ぐるりとその闇に視線を巡らせてから。
再びとなりの人物へと顔を向け、首をかしげた。
「嘘つきだ真鍋、月なんてどこにも見えないじゃんー。それとも真鍋には見えてんの? どんだけ目悪いの? そのメガネ度合ってないんじゃない?」
「………」
今日は朝からずっと曇っていたから、月なんて見えるはずないのに。
いきなりコイツは何を言っているんだと、思わずくちびるをとがらせた。
するとそんなあたしの発言を聞いて、真鍋はふーっと、真っ白な深いため息をひとつ。
「……志乃先輩って。本当に、残念な人ですね」
「なっ?!」
メガネ越しの、心底憐れんでいるようなその視線に見下ろされ、反射的に抗議の声をあげる。
あたしはまたくちびるをとがらせて、それからさらに深く、マフラーに顔をうずめた。
< 1 / 10 >