甘ったるい嘘吐き
「ぅえ、えっと、」

「でも志乃先輩、さっき『そんな予定まったくない』って言ってたってことは……断ったんですか、告白」

「え、あ、……うん」



真鍋の口調は穏やかだけど、なんだか、尋問されているような、妙な居心地の悪さがある。

こくりとうなずいたあたしを見て、ふっと、彼が息をついた。



「……先輩、さっき俺に、言いましたよね。『嘘つき』だって」

「へ、」



それが、先ほどの「月が綺麗ですね」という話のことだと思い当たって、目を瞬かせる。

真鍋はいつもの、無表情で。でもその無表情の中に見える真剣な瞳に射抜かれて、視線が逸らせない。



「……さっきの、言葉は。嘘でもなんでも、ないですよ」

「まな──、っわ、」



真鍋が1歩踏み出すのと比例して、無意識に後ずさっていたあたしの背中が、門にぶつかった。

カシャン。あたしのすぐ横に、真鍋が手をつく。
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