甘ったるい嘘吐き
「ははっ、こんなになってる志乃先輩、初めて見た」

「~~ッ」



めずらしく声を出して笑う真鍋に、ますます顔が熱くなっていく。

彼は最後に、ポンとあたしの頭に手を乗せて。

今度は、やわらかい笑みを向けた。



「それじゃあ、俺も帰ります」

「……うん」

「今日寒いから、ちゃんとあったかくして寝るんですよ」



そんな保護者みたいなことを言って、真鍋は踵を返した。

だけど背中を向けてから、「あ、」と小さく呟いて。

口元に笑みを浮かべながら、首だけであたしを振り返り、また視線を合わせる。



「先輩。家に入ったらぜひ、『夏目漱石』と『月』で、パソコンでも何ででも、調べてみてください」

「へ?」

「……ああ、ひとりきりでいるときの方が、いいかも」



じゃあ、俺はこれで。

今度こそそう言って、真鍋は去っていった。

残されたあたしは、つい先ほど撫でられた頭に、自分の右手を乗せて。



「……真鍋のばーか」



熱い息を吐きながら、ぽつりと呟いた。
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