ROMANTICA~ロマンチカ~
――それにしても、平和だ……。


高嶺は思う。
 


確かに少年犯罪は年々凶悪化の一途を辿りつつあるし、外国人犯罪も増加中、対する犯人検挙率は低迷中……。


――それでも、平和だ……。


三ヶ月前、ある男と関わりを持ち、ひどい目にあった。

そいつは捜査に首を突っ込んできてさんざんかき回した。

あげくの果てには高嶺自身、殺人犯によって拉致監禁(らちかんきん)され、負傷した。



幸い大事には至らなかったが、事件が高嶺の精神に残した傷は大きかった。

ショックのあまり、

へりつつあった貴重な髪がさらに抜けたし、

ストレス性の胃潰瘍(いかいよう)にはなるし、

血尿は出るしで最悪だった。



――あの男の空っとぼけた顔さえ目にしなくてすむのなら、密入国した中国人が青竜刀を片手に大挙して攻めて来ようと、少年グループにこのS警察署を占拠されようと、慌てず騒がず、冷静に対応できるだろう。



高嶺は思う。


(実際、そんな事態になった時、一番激しいヒステリーを起こすのは署長の高嶺徹だろうとは、S署内ではもっぱらの噂である)。
< 103 / 369 >

この作品をシェア

pagetop