ROMANTICA~ロマンチカ~
冬に備えて、マフラーでも編むか? 

いや、時間がかかり過ぎる。

中学の時、クラスで編物が流行ったことがあったけど、あの時あたしの「マフラー」は、三ヶ月かけて三センチしか編み上がらなかった。


マフラーになる頃には、氷室涼輔は還暦を迎えているかもしれない。



その頃には、あたし自身、一体何のお礼にマフラーを編んだのか、忘れてしまうに違いない。


 
ここは一つ、料理をしてみるか。

コックの松長さんの迷惑になるといけないから、おかず物じゃなくって、軽いお菓子でも作ろう。


そう、クッキーでも。

クッキーなんて作ったことないけれど、料理本を見てやれば、何とかなるだろう。
 


……だけど、いきなりクッキーなんぞ作って、やり過ぎじゃなかろうか? 



うっとうしいヤツと引かれたら、どうしよう? 



そうなったら、あたしのなけなしのプライドはズタズタだ。また不安になる。
 


おまけに、あたしは高校生の時、とってもトンガッていたので、好きな男のためにクッキーを焼いたりするような、「尽くす女」を演じる女のことを心底バカにして、軽蔑していた。
 


そのあたしが、恋にウツツを抜かす女はアホだと鼻でわらっていたあたしが、今更「恋する女」になるなんて、絶対イヤだ!
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