ROMANTICA~ロマンチカ~
「クッキー?」
 

涼輔さんの語尾に付けられたクエスチョン・マークに関しては、二つの解釈が可能だろう。


一つは、


「この僕にクッキー? 嬉しいなぁ」、


もう一つは、

「これは、本当にクッキーなのか?」

もしくは、


「こんな物体にクッキーという名がついているとは、初耳だ」。


 
涼輔さんの意図したところは、明らかに、後の方だった。

 
夕食の後、松長さんは快く台所を使わせてくれた。



手伝おうかと言ってくれたけど、あたしは一人で作らせてもらった。


そして、それがまずかった。

 
量りをわざわざ引っ張り出して来るのが面倒臭かったから、あたしは計量カップで小麦粉を量った。


それがミス1。
 

「耳たぶの固さまで生地を練る」と書いてあるのに、いつまで経ってもダラダラと指の間から流れる生地。


まあいっか、とオーヴン・シートを敷いた天板にスプーンを使って生地を乗せた。ミス2。
 

焼き始めると、甘い香りが辺りに漂い、いい感じだった。

 
焼きあがったら、流れた生地が隣同士でくっつき合っていた。


おまけに、小麦粉の分量の割にはベーキング・パウダーが多過ぎたらしい。


クッキーにしては膨らみ過ぎ(しかも、マドレーヌと呼ぶにはペシャンコ過ぎ)で、何だか嫌らしい大人のお菓子みたいになっていた。ミス3。
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