ROMANTICA~ロマンチカ~
昼下がりのS区M町。


ラヴホテルのメッカ。

そう言ったら、メッカが怒るかもしれないけど。
 

通りにはイヤラシイ目的を遂げようとしている男女があふれている。


が、誰もがあたしたちのことには見て見ぬフリだ。


まるで、あたしなんてこの世に存在しないみたいに。
 

うら若き十九歳のいたいけな乙女がこれほど声を限りに助けを求めても、誰一人助けてはくれない。

 
まったく、日本の社会はいつからこんなに不人情になってしまったんだろう?
 

あたしは電柱にしがみつきながら、義憤に駆られた。


そして、幼稚園の頃を思い出したりもした。


あの頃、幼稚園に行くのを嫌がって、毎日バス停の側の電柱にしがみついてママを困らせたっけな。

あの頃はママがいて、パパもまだ生きていた……。
 

「おら、来い」
 

電柱から引きはがされて、あたしはしんみりした思い出から現実の世界に引き戻された。
 

「コージ」があたしを一軒のホテルに引きずり込もうとしたその時、


「よくないなぁ。いやがる相手を無理矢理ってのはさ。

今時安手のAVだって、そんなのはやらないぜ」
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