ROMANTICA~ロマンチカ~
やがて、
 
「黒川」

 
部屋の隅には、秘書が直立不動でひかえている。

彼に向かって涼輔は、再び感情を排した声で言った。


 
「はい」



秘書は、三十代後半。

見るからに武道の達人といった感じの男だ。

その体つきのわりには透き通った声で答える。


 
「私の今日のスケジュールは」


 
「夕方六時から運輸省の斎木様と会食。社長も御同席なさる様子です。

それまでは空いてございますが」

 
「少し出てくる。五時までには戻ってくる。原島、これで満足か?」 

 
原島の顔に満面の笑みが広がった。


 
「社長代理にしては、判断に時間がかかりましたね。何を迷っておいででしたか?」
 

「別に」

 
涼輔は面白くもないといった口調で吐き捨てた。
 

「少し、昔のことを思い出していただけだ」
 

「ところで涼輔様、実を申しますと……」
 

何やら耳打ちすると、涼輔が眉根を寄せた。
 

「最初からそれを言え」
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