歪み
「拓っ」
突然聞こえた声、
驚いて振り返ると紅梨が立っていた。
珍しく私服で、水色のワンピースが風に揺れる。
「どうしたんだよ、こんなとこで」
何処かいつもより大人しい紅梨。
いつもならもっと何か言ってくる。
「真柚のとこ行くのか?」
「…違う、拓に用があるの」
俺に?よくこの状況がわからない。
「拓、うちね
拓が好きなんだ」
頬を赤く染めてワンピースの裾を握り締め
紅梨が言った。
その瞬間、俺の時は止まったようだった。
ピースが繋がり状況を飲み込み始めた俺は
この状況に困惑した。
言葉を発する事も出来ず、
俯く紅梨を見つめたまま動けずにいた。
「…そっか、ありがとう」
「うちさ、不器用なりに拓に作ってみたんだ。
今日バレンタインじゃん。
だから…受け取ってくんない?」
「うん」
可愛くラッピングされた袋なのに、
それを持つ手は重くて仕方ない。
だって、
俺が好きなのは…真柚なんだ。