歪み

「拓っ」

突然聞こえた声、
驚いて振り返ると紅梨が立っていた。
珍しく私服で、水色のワンピースが風に揺れる。

「どうしたんだよ、こんなとこで」

何処かいつもより大人しい紅梨。
いつもならもっと何か言ってくる。

「真柚のとこ行くのか?」

「…違う、拓に用があるの」

俺に?よくこの状況がわからない。


「拓、うちね
拓が好きなんだ」

頬を赤く染めてワンピースの裾を握り締め
紅梨が言った。
その瞬間、俺の時は止まったようだった。

ピースが繋がり状況を飲み込み始めた俺は
この状況に困惑した。
言葉を発する事も出来ず、
俯く紅梨を見つめたまま動けずにいた。

「…そっか、ありがとう」

「うちさ、不器用なりに拓に作ってみたんだ。
今日バレンタインじゃん。
だから…受け取ってくんない?」

「うん」

可愛くラッピングされた袋なのに、
それを持つ手は重くて仕方ない。
だって、



俺が好きなのは…真柚なんだ。


< 246 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop