千恋☆ロマンス Ⅱ
玲side
『はぐれちゃっ……た?』
「そうだな。……半ば強引にな。」
永遠が押されて……ついでに俺も押されて。
「大丈夫。梓に任せて。」
何故か俺の恋心を知っていて、異様に応援してくる梓のせいだろうと言うことは、簡単に想像がついたけれど。
『玲!良かったぁ……。』
永遠は一人っきりじゃない事に安心したようで、ほっと一息ついて笑った。
☆☆☆☆☆
『なんか玲と2人きりなんて、久しぶり。小学生以来位じゃない?』
「いつも三人だからな。」
どうせはぐれたなら出店をみて歩きたい、という永遠の提案で、俺達は元来た道に戻った。
毎年、神社の境内でカミウチとして働いている永遠。
梓の脅しで明希が今回は変わることになった。
永遠が大きくなってからの浴衣姿を見たのは今回が初めてで。
いつもとは違う姿に何故か心臓が痛い。
『……あ!玲、りんご飴あった!食べたい!!買ってきます!』
明希にお土産に出来るように、と小さいクーラーボックスを持参した永遠。
何ていうか……そういうところが可愛すぎる。
「永遠。こんな人混みの中なんだ、あんまり離れるなよ?」
『はーい。』
「ほら。」
俺は手を差し出す。
『うん!』
満面の笑みで手を握り返そうとする。
いつも通り、変わらずに……。
『え?』
永遠が驚いたのには訳がある。
それは、俺が出した手を引っ込めたから。
「もし、この手が東条だったらどうする?」
突然の質問に戸惑う永遠。
んー、と考える。
『皐月?皐月だったら……ちょっと迷う……かも。』
「春輝だったら?」
『繋ぐ……かも。』
「俺だったら?」
『繋ぐよ。どうしたの、玲?』
変な玲、と言う永遠。
つまり俺は、全く男として意識されてないという事に気がついてるかな。
「俺は我儘だよ。この手を握ってほしいし……躊躇ってほしい。」
『躊躇う……?』
どうして?と首をこてんと傾げる。
「安心してほしいけど警戒してほしいんだ。」
『玲……?』
「少しは気づけ、馬鹿永遠。」
瞬間、ドンッと打ち上がり始めた大きな花火。
『馬鹿って………うわぁ、花火だ……!』
「はいはい、綺麗だな。」
『もう!そうやって適当にあしらわないでよ!』
花火に、わぁ……と小さい子供のように目を輝かせる永遠。
花火じゃなくて、こっちを見ればいいのに。
俺だけを、見てくれればいいのに────。
「永遠。」
『んー?』
「好きだよ。」
『私も玲の事す「そう言う事じゃない。」』
「これで……分かるだろ?」
え?とこっちを見た永遠の額にそっと口を近づける。
ちゅっ、と小さな音が聞こえて、永遠はそれとほぼ同時に2、3歩よろけた。
『なっ……玲っ……。』
真っ赤になって、驚いて……それから額を押さえている永遠。
「永遠、手、繋ぐか?」
更に真っ赤になって全力で首を振る。
これでいい。
「じゃあ、浴衣の裾にでも捕まっておきな。」
ドン、と満開の花火。
何かが始まって、何かが終わった。
「あ、もしもし、梓何処?」
それから、希望通りりんご飴を2本買って。
チョコバナナを食べたり、射的をしたりして、およそ四十分後、俺は梓に電話をかけた。
少し離れた所で休憩している永遠に話しかける。
「永遠、梓が視線が面倒くさくなったから帰るって。東条と春輝はいるみたいだけどどうする?」
『ハル達と……回ります。』
敬語かよ、と少し笑ってしまった。
「そっか。この先の金魚すくいの所にいるみたいだから行こう。」
そう言って永遠に近づくけれど……物凄く警戒されてる。
「そんなビビるなよ。」
『だって玲が変な事言うからぁ。』
若干の涙目に上目遣い。
狙ってやってないのが凄い。
ちなみに間違いなく梓は意図的に習得して、乱用しているだろうけどな。
でも、梓が身につけたいのもわかる。
思わずポンポン、と頭を撫でてしまう。
「……可愛い。」
『ゲホッ……!』
そして永遠は初めてのトロピカルジュースにむせたのだった。
玲side end