マリア様!



迫られたことがないわけじゃない。私くらいの美女なら、一回二回のアクションは不回避なもので。

でも、それでも。


こんな動揺したのは、初めてかもしれない。



「離れてって言ってるでしょ!」

強くなる口調に、震える唇。

なんで私、こんなに動揺しているの?———なんて、自分でも分からない。


この男に惚れている訳でもないし、ましてや期待している訳でもない。ただただ、恥ずかしくて仕方ない。



「離れないよ、俺は。」

ゲームみたいな賭けとは対称的に、真っ直ぐ見つめられる視線が落ち着かない。


昨日みたいに嘘くさい笑顔並べて、冷めたように見られた方がどれだけ幸せか。

なんて思いながら、顔を逸らした。





可愛いともてはやされることはたくさんあった。羨むような視線で見られることもたくさんあった。———だけど、

あんな瞳で、見られたことなかった。



「は、はな…っ、離れてってばぁ…!」

未だ私の目の前に居る彼に、怒鳴るように言葉を吐いた。



自分でも訳分からない感覚にドンドンと目の前の男の胸板を叩けば




「フッ」


鼻で笑うような声が聞こえて、怒りで顔を上げてみたら




「意外と、可愛いじゃん。」


優しく笑う、こいつと目が合って

敗北感に、襲われた。



自分の並んでいた列に、横から割り込みされたような

そんな、気分だった。


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