恋人を振り向かせる方法
敦哉さんの体は、スーツの上からの想像を超えるくらいに引き締まっていて、その胸は逞しかった。
そんな人に抱かれるだけでも心地のよいものなのに、テクニックはさすがとしか言いようのないくらい私のツボを押え切っていたのだ。
呼吸を乱したまま、敦哉さんはベッドへ寝転がった。
シングルサイズのこのベッドでは、二人並ぶには窮屈だけれど、お陰で敦哉さんから抱きしめてもらえたのだから、ベッドは広くなくていい。
それにこんな時ですら、壁際に私を寝かせてくれるその気遣いに、ますます想いは大きくなる。
「敦哉さん、気持ち良かった•••」
胸に顔を埋めるていると、優しく髪を撫でられた。
「何だ、そんなセリフもちゃんと言えるんじゃないか。さっきは帰るとか言われたから、かなり焦ったんだけどな」
まだ息が切れている敦哉さんの体は、少し汗ばんでいた。
それが、まるで私とのセックスを頑張ってくれた証拠に思えて、ますます愛おしく感じる。
「だって、私だけが意識してたのかと思って恥ずかしかったから」
拗ねた様に言う私に、敦哉さんは楽しそうに笑う。
そして、再びキスをしてきたのだった。
「まさか。いくら愛来より10歳も年上だからって、そこまで落ち着いてないよ。俺は、やる気満々だったけどな」
「やる気満々って何よ」
思わず笑った私を、敦哉さんも笑顔で見つめた。
「愛来は笑ってる方がいいよ。週末のパーティーも、その笑顔で行ってくれないか?」
「え?パーティー?」
突然出てきた脈絡もない単語に目が丸くなる。
せっかくの夢見心地な気分が、吹っ飛んでしまったではないか。
すると敦哉さんはおもむろに手を伸ばし、棚の上に置いてあるチケットらしきものを取ったのだった。
その時ようやく部屋を見渡したけれど、敦哉さんの部屋は1DKのごくシンプルな部屋だ。
私の身長ほどの棚と、リビングテーブルがあるだけ。
そのテーブルの上にはタブレットが置いてあった。
「何?そのチケット」
起き上がって見てみると、そこには豪華な船の写真が写っている。
「船上パーティーのチケットなんだ。貰い物なんだけど、愛来と一緒に行きたくてさ。行ってくれるだろ?」
「船上パーティーに!?」
パーティーなんて単語は、私には無縁のものだと思っていた。
それも、どうやら豪華客船のパーティーらしい。
そこに敦哉さんと行くというのか。
しかも、初めてのデートで。
動揺を隠せないけれど、それは悪い意味ではない。
想像すると気分が高まり、すぐに返事をしていたのだった。
「もちろん行く!」