恋人を振り向かせる方法
いつだったか、話には聞いていた事があった。
豪華客船でランチを食べたりする企画があると。
それは、名前ほど堅苦しい内容ではないとも聞いていた。
だから、敦哉さんが誘ってくれたパーティーも、それと同じものだと思っていたのに、事前に言われたセリフ、それは•••。
『ドレスアップしてこいよ』
だったのだ。
もちろん、ドレスなど持っていないのだから、その事を伝えると、披露宴に呼ばれた時の様な格好をすればいいと言われ、会社帰りに買いに行ったりもした。
そんな落ち着かない日々を過ごしたお陰で、敦哉さんとの関係を亜由美に話していいものか、それを相談する余裕もないまま、週末を迎えたのだった。
「愛来、可愛いじゃん」
敦哉さんが迎えに来てくれ玄関を開けると、開口一番、それを言われた。
「ありがとう。だけど、こんな格好でいいのかな?パーティーなんて、行った事がないから」
用意したのは薄いピンク色のサテン生地のワンピースで、膝丈のマーメイドラインになっている。
襟元にはラインストーンが散りばめらているのと、スカートの裾にフリルがあるだけのシンプルなものだ。
ヘアスタイルは髪を巻いてアップにしているけれど、これはサロンでやってもらったものだった。
「完璧だよ。それから、これをつけてくれないか?」
「え?何?」
有無を言わさず、敦哉さんは私の左手薬指に指輪をはめたのだった。
それは、シルバーのシンプルな形のもので、中心には石が埋め込まれている。
ダイヤだろうか?
「これ•••、何で?」
驚く私に、敦哉さんは涼しい顔をしている。
「ダイヤの指輪。本当は、もっとロマンチックにあげたかったんだけど、慌てて用意したものだから。良かった。サイズ、ピッタリだな」
「ダイヤ?」
はめられた指輪に息を飲む。
ダイヤの指輪を贈られるとは、夢にも思っていなかったのだ。
眩しいくらいに輝くダイヤを見つめながら、なぜ急に指輪を贈ってくれたのかが不思議だった。
今日のパーティーと、何か関係があるのだろうか?
そう思いながらも答えが出るはずもなく、敦哉さんのエスコートでタクシーで港へ向かう。
20分ほどでついた港では、真っ先にパーティーが行なわれる豪華客船が目に飛び込んできたのだった。
チケットの写真と一緒だ。
それにしても、イメージよりずっと豪華で圧倒される。
大きさはもちろんの事、甲板には椅子やテーブルが見受けられて、そこではドレスアップした人たちの姿も見えていた。
「世界中を旅してる船なんだよ。今日から3日間はここに停まっていて、そして今日がパーティーってわけなんだ」