恋人を振り向かせる方法
新島グループ?
その男性の口から出た言葉に、聞き覚えのある単語が出てきて呆然とした。
新島グループとは、間違いなく新島財閥が経営する企業の事を言っているはずだ。
メディア関係から、ホテル事業、それに貿易業も行なっている。
そのグループ企業の御曹司が•••敦哉さんだというのか!?
思わず敦哉さんに視線を向けると、険しい顔を崩さずにその男性を見つめていた。
「情けないって何だよ。オヤジに会いたくなかった、それだけで十分な理由だろ?」
すると、その男性は深いため息をついたのだった。
「ああ、十分だ。育て方を間違えた様だな」
そう言うと身を翻し大股で船内へと消えたのだった。
それにしても、あの人を『オヤジ』と呼んでいたという事は、敦哉さんのお父さんだったという事か。
それならば、何と最悪な初対面だろう。
挨拶はおろか、ほとんど視線も向けられなかったのだから。
「あの、敦哉さん。どういう事?」
何も知らない私には、この状況を理解する余裕がない。
すると、敦哉さんは強引に私の腕を引っ張り、歩き始めたのだった。
「詳しい事は部屋で話すよ」
怖いくらいの口調に、それ以上は何も言えなかった。
歩きながら見える船内は、まるでホテルの様な雰囲気で、ロビーに当たる場所は吹き抜けになっている。
そこには螺旋階段があり、3階まで続いていた。
どうやら、2、3階には客室があるらしい。
ロビーの周りにはレストランやバーがあり、そこから広い甲板へ出られるようになっている。
金色のシャンデリアに赤い絨毯。
船内のイメージカラーは、金色とワインレッドの落ち着いた高級感溢れるものになっていた。
だけど、今はその雰囲気に酔っている場合ではない。
話を聞かないといけないのだから。
そして敦哉さんに連れられて着いた場所は、3階奥の客室だった。
「ったく、やっぱりこの部屋か」
吐き捨てる様に言うのだから、どれほど酷い部屋なのかと思ったら、まるで高級住宅のリビングルームの様な部屋が飛び込んできたのだった。
焦げ茶色の革張りソファーが2脚。
その前には同系色のテーブルが置かれ、上には彩り豊かな生花が飾れている。
そして、奥にはダブルベッドが置かれていた。
そこから、ちょうど海が見渡せる窓があり、何とも贅沢な部屋だ。
「ほら、座って」
そう言って敦哉さんが促したのは、ソファーではなくベッドだった。
窓から入ってくる海風は、冷たいけれど心地よい。
ちょうど西へ向いている様で、数時間後には陽が沈む様子が見られそうだ。
「実はさ、さっきオヤジが言ってた通り、俺は新島グループの一人息子なんだ」
隣に座った敦哉さんが、そう説明してきたのだった。