恋人を振り向かせる方法
好きな人を思い浮かべながら仕事をすれば、どれほど効率が上がるだろう。
と思っていたのに、全くはかどらない。
それに、お腹も空いて効率は悪くなるばかりだ。
「もうダメかも」
とうとうデスクへ突っ伏した時、ドアがノックされたのだった。
「は、はい」
こんな夜中な尋ねてくるなんて、営業部の誰かだろうか。
データ処理の進み具合を確認しに来たに違いない。
恐る恐るドアを開けると、そこには敦哉さんが立っていたのだった。
「敦哉さん!?どうして?会議は、もう終わったんですか?」
予想外の敦哉さんの登場に、戸惑いながらも胸はときめいている。
それにしても、どうして敦哉さんが来てくれたのだろう。
すると、そんな私の疑問を察した様に答えてくれたのだった。
「ああ。会議は、もう終わったよ。それでオンラインを見たら、愛来がまだ残ってるみたいだったから、心配で様子を見に来たんだ」
「敦哉さん•••。ありがとうございます」
わざわざ、心配して見に来てくれたなんて、ますます心の中の期待値が大きくなるというものだ。
そして敦哉さんは部屋へ入ると、パソコンを覗き込んだ。
「少し苦戦してるんだな?」
「はい。思った以上に•••。すいません」
こんな事なら、もっと気合いを入れて進めておくべきだった。
このデータの中には、敦哉さんが仕事で使ったものもある。
間接的に、敦哉さんの仕事を手伝っているようなものなのだ。
「いや、謝る事じゃないよ。こんなに量が膨大だったんだな。俺たち営業課が、ここまでお願いしてたとは思わなかったよ。ごめんな」
「いえ、敦哉さんが謝らないでください」
むしろ、期待に添えなかった自分が情けないのだから。
それにしても、敦哉さんは何て優しいのだろう。
仕事を任した後に、こんな風に心配してくれる人などいない。
「私、最後まで頑張るので、敦哉さんは心配しないでください。それじゃあ、お疲れ様でした」
明日の朝までに仕上げて、敦哉さんに見直してもらおう。
そう思い仕事を再開させようとした時、デスクに着いたのは敦哉さんだった。
「手伝うよ。これが終わったら、何か食べに行こう。みんなには内緒な?」
口角を小さく上げて微笑んだ敦哉さんは、そう言ってキーボードを打ち始めたのだった。