恋人を振り向かせる方法
『俺を振り向かせてみろよ』
その言葉に、一番腹が立つ。
利用されていると分かっても、私が敦哉さんを想い続けると確信しているから言える言葉だ。
ここまで自惚れの強い人だとは、想像もしていなかった。
とはいえ、敦哉さんがそう考えても、それは間違ってはいない。
結局、好きなのだから。
だけど、簡単に受け入れるにはプライドが許さなかった。
「振り向かせる?何で私がそこまでするのよ」
セックスが終わって、鏡の前でヘアスタイルを整える。
せっかくアップにしたというのに、崩れてしまった。
加えて私は不器用だったりする。
だから、最初のヘアスタイルに戻す事が出来なくて、仕方なく髪を下ろしたのだった。
巻いていたせいで、緩やかなウェーブが出来てしまい、夜の仕事をしている雰囲気になってしまった。
「お?愛来、そっちの髪の方がいいじゃん。意外と派手なスタイルも似合うんだな」
鏡越しに見える敦哉さんは、呑気にもべッドへ座ったまま私を見ている。
「質問に答えてよ、敦哉さん。何で、私が振り向かせないといけないの?」
勢い良く振り向くと、いつの間にか敦哉さんが目の前に来ていたのだった。
「敦哉さん!?ちょっと、服着てよ!」
「何で、そんなにシラフなわけ?」
動揺する私に敦哉さんは眉間にシワを寄せ、不満げに見た。
「え?シラフって?意味が分かんないよ」
目のやり場に困るではないか。
さっさと服を着て欲しい。
すると、敦哉さんは苛立った様に私の手を引っ張り立ち上がらせると、壁に追い詰めたのだった。
「セックスが終わって、そんなにすぐシラフに戻れるものか?初めてヤッた時は、余韻に浸ってたじゃないか」
「何言ってるのよ。バカな事を言わないで、どいてよ。だいたい、いつまで部屋にいるつもり?」
私がシラフ?
それは、余韻に浸る気持ちを抑えたからに決まってるではないか。
「それなら、敦哉さんだって一緒でしょ?シラフなのはどっちよ」
何とか手を伸ばして取れたのは、白いガウンだった。
「ほら、とにかく何か羽織ってくれない?」
突き出したガウンを敦哉さんは乱暴に取ると、それを放り投げたのだった。
「あっ!ちょっと!」
思い切り睨むと同時に、唇が重なった。
せっかくメイク直しをしたのに、これでは口紅がまた落ちてしまう。
それに、ワンピースのファスナーまでもが、下ろされようとしていた。
「敦哉さんてば、何を考えてるのよ。何回も何回も、よく好きでもない女と出来るわね?」
ありったけの嫌味を込める。
その間にも、敦哉さんの手が体中に這ってきて、声が漏れてしまった。
「教えてやろうか?男はね、溜まってるからヤリたいのと、好きだからヤリたいのと、二つの理由でセックスしたがるんだよ」
「な、何よそれ。じゃあ、敦哉さんは溜まってるわけだ?」
理性を失いかけた頭で、必死に憎まれ口を叩く。
気持ちとは反対に、体は敦哉さんに反応していた。
「違う。愛来が可愛いから。3つ目の特別な理由だな」