恋人を振り向かせる方法
何が特別な理由だ。
そんな都合のいい言葉を並べて、私を遊んでいる様にしか見えない。
二回目のセックスを終えた私は、呼吸を乱しながら、振り向きざまに敦哉さんを睨んだのだった。
すると、淡々とスーツに着替えている。
どっちがシラフなのか。
さっさと現実に戻ってるのは、敦哉さんの方じゃないか。
「敦哉さん」
ワンピースを拾い上げながら、次はどんな憎まれ口を叩いてやろうかと考えていると、スーツを着終えた敦哉さんがやって来て、ワンピースを取ったのだった。
「ベッド以外でヤルのも燃えるよな。ほら、早く着替えろよ。もうすぐパーティーが始まる」
「変な事ばかり言わないでよ。ていうか、パーティーってとっくに始まってるのかと思ってた」
どおりで、ゆっくりしていたわけだ。
パーティーは、まだ始まっていなかったらしい。
急いでワンピースを着ると、敦哉さんが優しく髪を上げながら、ファスナーを上げてくれた。
「あ、ありがとう」
「いや。それより早く行こう」
敦哉さんは私の手を取ると、足早に部屋を出たのだった。
そうだ。
きっともう一度、お父さんに会うはず。
だって、今日は敦哉さんの政略結婚の話があるのだから。
その為に、私は連れて来られたのだし•••。
「緊張する•••」
改めて考えると、利用されているのに、私がここまで緊張する必要があるのだろうか。
今すぐこの手を振りほどけば、私は解放される。
何も好き好んで、敦哉さんのお家事情に巻き込まれる必要はないのだ。
だけど、もしそうすれば、敦哉さんは幼なじみの彼女と結婚をするかもしれない。
明日には、そんな話を聞く羽目になるかもしれない。
そんな事を考えながら、足早に歩く敦哉さんを見上げてみた。
その横顔は、どこか険しさがある。
例え、私たちの関係が嘘で成り立っているとしても、私が敦哉さんを好きという気持ちは変わらない。
それを思うと、この手を振りほどくことは出来なかった。
すると、私の視線に気付いた敦哉さんが、歩みを止めてこちらを見たのだった。
「緊張する?大丈夫だよ。俺と一緒だから。それと、恋人の振りをして欲しいのは、誰でも良かったわけじゃない。愛来だったから、俺の彼女になって欲しかったんだ」
「私だから?」
「ああ、そうだよ。言ったろ?愛来は可愛いって。それにタイプだって事も」
調子のいい言葉を並べて、敦哉さんはおでこに軽くキスをした。
「ちょっと、こんな所で!?人に見られるでしょ?」
いくら廊下とはいえ、開放感たっぷりの船内だ。
どこで人に見られているか分からない。
恥ずかしさでおでこに手を当てると、敦哉さんは小さく微笑んだ。
「もう•••」
照れ隠しで口を尖らせた時だった。
「敦哉くん?」
背後から、女性の声がしたのだった。