恋人を振り向かせる方法
敦哉さんの言葉に、奈子さんのお母さん以外、みんなの表情が険しくなる。
敦哉さんのお父さんにいたっては、とうとう立ち上がってしまった。
「何を寝ぼけた事を言ってるんだ!だいたい、奈子さんの気持ちになってみろ。お前たちは、兄妹の様に仲が良かったじゃないか。何で、その結婚を渋るんだ」
敦哉さんたちは、そんなに仲が良かったのか。
思わず、二人を見比べてしまう。
そんなお父さんの言葉に、力なく両親の隣に座った奈子さんの目が潤み始めた。
奈子さんは間違いなく、敦哉さんを好きだ。
例え政略結婚といっても、きっと嬉しかっただろう。
そこへ私が現れたのだから、どれだけ邪魔に思っているか。
「寝ぼけてなんかないよ。奈子は大事な妹みたいな存在なんだ。結婚なんて出来るわけないだろ?妹と結婚するみたいで嫌なんだよ。それに、前から言ってる通り、俺は跡を継がないからな」
跡を継がない!?
あの新島グループを継がないとは、社会の混乱の元だ。
それだけ影響力のあるグループだというのに。
どうやら、単なる結婚阻止が目的ではなく、深い事情がありそうで怖くなる。
そもそもこんな偽装恋人関係を、演じ続けていいのだろうか。
「敦哉!そんなワガママがまかり通る訳ないだろ」
お父さんの怒号は部屋中に響き、そして奈子さんのお父さんまでもが口を開いたのだった。
「敦哉くん、一体娘のどこが不満かね?あんなに、子供の頃から可愛がってくれていたじゃないか。私はてっきり、二人が付き合っているものだと思っていたんだがね」
ゆっくりとした口調だけれど、ひしひしと伝わってくる。
敦哉さんへの批判が。
「申し訳ありません。気持ちは変わりませんので」
軽く頭を下げると、次は奈子さんに視線を向けた。
「奈子、本当にごめんな。悪いけど、他を当たって」
「敦哉!?いい加減にしろ!」
声に出して泣き出す奈子さんに、怒号を響かせるお父さん。
まさに修羅場と化したこの部屋で、冷静に口を開いたのは敦哉さんのお母さんだ。
「敦哉、ところでそちらのお嬢さんは、どういうお家柄の人?」
お家柄!?
お家柄も何も、ただのサラリーマンの娘だ。
質問一つにも、敦哉さんの住む世界とのギャップを感じる。
「それが、何か関係あるのか?家柄なんて、どうでもいいだろ?」
吐き捨てる様に言った敦哉さんに、お父さんは感情を抑えきれないのか、テーブルを叩いた。
その強さに、ガラスが割れるのではないかとヒヤヒヤする。
「関係ないわけないだろ!いいか?お前は新島家の一人息子なんだ。お前の仕事も結婚相手も、子供を作るタイミングだって、全て決まってる。お前は、その通りに進めばいいんだ」