恋人を振り向かせる方法
何て事を言うのだろう。
いくら父親とはいえ、あまりに酷い言い草だ。
それでは敦哉さんの意思というものが、ないがしろにされている。
さすがに、これには腹が立った。
とはいえ、お父さんに意見する勇気はない。
「子供って何だよ。話が飛躍し過ぎてないか?」
そう言って敦哉さんは鼻で笑ったけれど、お父さんは私に鋭い目を向けたのだった。
「飛躍してる?それはどうかね。だいたい、君のヘアスタイル、どうして来た時と変わってる?」
「えっ!?」
これには、さすがの敦哉さんも息を飲んで私に顔を向けた。
まさか、ヘアスタイルを指摘されるとは思わず、言葉を返しようがない。
まさに、ヘビに睨まれた蛙状態。
『えっ!?』と声を上げただけで、後は立ち尽くしてしまった。
すると、お父さんは深いため息をついたのだった。
「私は、二人の交際には全面的に反対だ。間違ってでも、子供が出来たなどと言ってくるんじゃないぞ」
その言葉に、全て見通されている気がして、恥ずかしさで顔が熱くなる。
さすが、新島グループの総帥。
とても、私が敵う相手ではないと、改めて思わされてしまった。
「俺はオヤジのそういうところが嫌いなんだよ!どれだけ偉い人間のつもりなんだろうな。俺には、全く見えないけど」
「敦哉!口を慎みなさい。お父さんに失礼でしょ?」
いつになく感情的な敦哉さんに、お母さんが一蹴した。
口を開けば開くほど、修羅場と化す空気が重苦しい。
そんな私に気付いたかどうか、敦哉さんは手を握ると、ドアへ向かって歩き出した。
すかさず背後からは、お父さんの怒号が聞こえる。
「敦哉!どこへ行くんだ。話は終わってないぞ?」
「愛来をいつまでも、こんな場所にいさせたくないから。俺の話は終わり。跡は継がないし、奈子とは結婚しない。じゃあな」
振り向きもせず、敦哉さんは乱暴にドアを開くと、私を引っ張る様に出て行ったのだった。
「お父さん、追いかけてこないね」
チラリと振り向いてみたけれど、追いかけてくる気配はない。
「追いかけて来るはずないよ。あそこは、新島家専用の部屋だから、あんな所から追いかけてみろよ。内紛が外部に丸分かりだ。世間体が大事なオヤジがするはずない」
「そうなんだ•••」
どうやら、想像以上に家庭事情が複雑みたいだ。
お父さんとの関係は最悪みたいだし•••。
だけど、あんな風に人生を強引に決めつけられたのでは、誰だって反発したくなる。
「それより、ごめんな。愛来が巻き込まれる必要はなかったのに」
初めて見せる弱気な顔に、思わず吹き出した。
「今さら?自分から私を利用しようとしたくせに」
すると、敦哉さんは罰が悪そうにぎこちない笑顔を浮かべたのだった。
「そうなんだけどさ。いくらなんでも、修羅場を見せ過ぎたなって•••」
しどろもどな敦哉さんを、どことなく可愛く感じる。
10歳も年上とは思えないくらいだ。
「いいよ。私、敦哉さんの事が好きだから。好きな人と一緒なら、どんな場所だってパラダイスなの。例え、それが一方通行な想いだったとしてもね」